(時間の)95%は企業がしっかりとその計画を遂行できるようにすること

CEO と成長の苦しみ - Sam Altman とのインタビューを読んだ。全体にとても納得感があり、自分の感じるものと近いところの多いインタビューだった。

Sam Altman CEOという役職に求められるのは、企業が何をすべきかを見極めること、そして実際に企業がそれを行動に移すようにすること、基本的にはこの2点です。

(略)

Sam Altman この難しい部分は、多くの人たちが最初にやるべき部分、つまり会社が何をすべきなのかを見極めることです。しかし実践において、時間的にはこの仕事は5%に過ぎず、残りの95%は企業がしっかりとその計画を遂行できるようにすることだと思います。ですが、こういう風に計画を確実にこなせるようにするというのは、要するに信じられないほどの繰り返しの作業なので、ほとんどのCEOにとっては面倒で厄介なことです。

そのためには従業員やプレスや取引先と何度も何度も同じやり取りをする必要があります。「私たちは今これをしている、これが理由だ、そしてこれがそのやり方だ」と繰り返し言うことになります。コミュニケーションを取り、企業のビジョンとゴールをエバンジェライズしていくこと。これこそがCEOが一番多くの時間を割いて取り組むべき仕事です。

『経営は「実行」』という本があって、英題はそのものずばり “Execution” というのだけど、今いる会社はこれを非常に重視していて、戦略とその実行というのが経営を支える屋台骨になっている。会社としての仕組みもそれを維持するために設計されていて、全社がそれで動いている。入社して最初に見たときにはこんな会社があるのかと心底驚いた。

今の自分はその会社では経営と近い立場で思考や実行をするべき役割をしていて、ただ一方で「開発は実行」と割りきってスピードと実行力だけを重視するというのは今まで自分が見てきた開発の実情と合わない部分があるなと感じ、じゃあはたしてなにを大切にするのがよいのだろうと考えながら働いてる。

その中で、フローの仕事だと目の前の流れる仕事の成果を最大化することを一番重視すると大体結果と「それははたしてよいことだったのか」というものが相関しやすいのだけど、ソフトウェア開発という仕事は少し特性が違っていて、開発という活動の結果はソフトウェアとして蓄積され、それが良いほうにも悪いほうにも将来に影響を与えるストック型の仕事だという理解が今の自分の理解になっている。

そして、Web のサービスとして提供し続けていくというのは時間の変化の中で提供をし続けていくことで、それをするためのチームやプロセスというのが必要になってくる。ソフトウェアの性質に引っ張られて、このチームやプロセスを維持する活動もストック型の性質になり、ただ「つくる」ということからイメージされるのとはやや違った価値観が必要になってくると考えている。

Talkin’ ‘bout my “Execution”

さて、”Execution” だがこの大事さは理解しつつ、自分はこれが非常に苦手だ。「実現とそのための工夫」は好きだ。開発者なのでむしろそこには喜びを感じる。でもこの「実行」ってやつときたら、もっとつまらないもので、率直にいって創造性が少なくただやるべきことをやる 。それだけだ。それだけのことが多くの人ができないので、重要なのだ。

やることを決める。誰がやるか決める。いつまでにやるか決める。やったかどうかを追いかける。やっていなかったら実現するにはなにが必要か、実現されるまでフォローし続ける。

たったこれだけのことではある。でもやれない。人に嫌がられることもあるし、面倒になって手を抜きたくなるときもある。

以前いっしょに働いていた中にこれがとても得意だった同僚がいた。彼らは会議の場でも状況を聞くのだけど、折にふれてあちこちの場面で声をかけていた。席に来て、「あの件なんだけどどうなってる?」「ほんとに? どうもありがとう」「忙しいところ悪いんだけどさ、でもやっぱりどうしても大事なやつだからさ。よろしくね」「そこで困ってるんだったら協力してもらえないか聞いてみるよ」こんな言葉をかけて嫌らしさを感じさせずに物事を進行させていく名人だった。いつも「いや、ほんと悪いね」と言っていた。

割込されるのは嫌なものだ。だから、アジャイルの開発プロセスではこういったものが解決されるための仕組みというのをいろいろな場面でつくっている。でもあちこちでプロジェクトを見ていて、この “Execution” が弱いなと思う場面が多かった。プロセスの問題ではなくてそこで働く人たちの前提に置いているものだったりに左右される部分が大きいのだろう。同じプロセスで働いていても、この実行をするようにうながす役割を誰かがしてくれるだけで断然結果の出方とスピードが違ってくる。

この実行を支えるための一言はナッジングという呼び名もついているらしい。HIGH OUTPUT MANAGEMENT でアンディ・グローブも nudge することの重要性を書いていた。振る舞い方を間違うと嫌なマネージャーに見えがちな仕事だけれど、かつての同僚を見習って上手に nudge する人でいたい。